令和4年度の始まりにあたり、一言ご挨拶申し上げます。
普段なら入学式や入社式といった、不安と期待が入り混じったような感覚が訪れる季節ですが、今年は昨年同様モヤモヤとした気持ちを抱く方が多いのではないでしょうか。かく言う私も、やはりモヤモヤとした気持ちです。
コロナ禍も3年目となりました。感染拡大当初は敵(covid-19)の正体が皆目わからず、また病状の急激な進行により亡くなる方の報告が相次ぎ、私たちも不安の中で対応に苦慮しました。しかし、3年目となった今では、相手の特徴を知ることができたことのみならず、ワクチン、各種治療薬が登場し様々な状況で対応できるようになってきました。これらの事実は、私たち医療者のみならず社会的にも重要なポイントだと考えます。なぜなら社会生活を元に戻すために必要最低限の武器となるからです。しかし、それらの武器を手にしながらも、社会活動はいまだ正常には程遠い状況です。これが、私たちのモヤモヤの原因ではないでしょうか。
医療は社会活動に必要不可欠なものと考えますが、今回のように医療が目立つことは社会全体にとって避けるべきものでしょう。毎日のニュースに話題がのぼってしまう今の状況は『普通』ではありません。むしろ、医療は目立たず、しっかりと社会を支える『黒子』の役割でいられることがいいのではないでしょうか。医療が社会の『黒子』でいられるために、私たちは何をしたらいいのかを日々考えている最近です。
一方で今回のコロナ禍は、私たちに様々な気づきを与えてくれたと思います。感染拡大に伴い、コロナ以外も含めて入院が必要なのに入院してもらうことができない患者さんを前にした時は、本当に心苦しく、そして申し訳なく感じました。そんな時は、近くの他院に入院加療を対応していただくことで何とか凌いできました。病院単独で地域を守ることが不可能であることを、まざまざと見せつけられた瞬間でもありました。
幸い私たちの暮らす神奈川県県央地域では、以前より病院同士のコミュニケーションが活発でした。このコミュニケーションがあったからこそ、困った時はお互いに助け合うことができ、今回の難局も乗り越えられたのではないかと思っています。また、各行政はワクチン接種対応のみならず地域の皆さんに、積極的な情報発信を行ってくれました。そのおかげもあって、病院を受診される皆さんは苦しい私たちの状況も理解してくださいました。皆さんが私たちを理解しようとしてくれている事実で、私たちの心がどれだけ助けられたかわかりません。本当に有難うございました。そして、これらの事実から私自身、街を守るためには地域ぐるみが必要なんだと強く実感しました。
これからも地域とのつながりを、強く意識しながら『黒子』としての医療提供ができるよう努力を続けてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
2022年04月01日
海老名総合病院
病院長 服部 智任